- ホーム
- お知らせ
- 医療生協さいたま「20周年記念事業」
- 国際協同組合年について

2012年は「国際協同組合年」です。協同組合が支え合いの精神で、貧困の根絶や、持続可能な開発、雇用の創出などに貢献していることを広く知らせ、より活動しやすいしくみを作ることをめざしています。
日本でも、2012国際協同組合年全国実行委員会が設立され、国際協同組合同盟と協力し、協同組合の価値や役割を社会にアピールしていきます。

- 中川 雄一郎
(なかがわ ゆういちろう) - 明治大学
政治経済学部教授
【プロフィール】
経済学博士。2012国際協同組合年全国実行委員。『社会的企業とコミュニティの再生(増補版)』(大月書店)ほか著書多数。『地域医療再生の力』(新日本出版社)を監修。
事業体であり運動体
消費生活協同組合、農業協同組合、漁業協同組合、信用協同組合、労働者協同組合など、日本にはいろいろな協同組合があります。
皆さんが加入している医療生協もそのひとつです。
では協同組合とはいったいどんな組織なのでしょう。ひと言でいえば、協同組合は、事業体であるとともに運動体です。
購買生協を例にとるとわかりやすいでしょう。購買生協は組合員に商品を供給(=事業)していますが、利潤だけを追い求めるふつうのスーパーとは違います。
安全で安心なものを供給する(=運動)という前提があります。さらに、平和な社会という条件が大前提となっています。事業を通じて、よりよい社会秩序を創り出す諸条件を再生産するという、社会的役割を実践しているのです。組合員も購入しながら、安心・安全と健康の維持という、よりよい社会生活を理解します。こうして、協同組合の事業と運動は、組合員を通じて他の多くの人たちに理解され、協同組合の価値が社会的に認識され、承認されるのです。しかし、このことが容易になされると思ってはなりません。
19世紀後半に活躍した経済学者、フランスのシャルル・ジイドは、「協同組合は教育する場である」と強調し、また「産業革命」の名称の生みの親として知られるイギリスの経済学者、アーノルド・トインビーは、「協同組合の仕事は市民を教育することである」と主張しつづけました。
個人だけではない社会の豊かさを
皆さんが、海外産のものを格安の値段で買ったとします。消費者個人としては、「助かるな」と思うかもしれません。しかし、生協の組合員としては、はたしてこの値段はフェア(公正)だろうか、もう少し高くして、現地の労働者の待遇をよくするよう交渉できないのかなどということを考えてもよいのではないか、と私は思います。自分だけでなく、多くの人の生活を豊かにするために協力しあっていくのが、協同組合だからです。
一時衰退していたイギリスの生協が盛り返したのは、フェアトレード(生産者・労働者から搾取しない公正な貿易システム)によってでした。発展途上国だからと商品を買いたたくのではなく、その国の人たちが豊かな暮らしができる公正な価格で商品を購入したことで、復活し、発展を遂げています。商品の価格は少し高くなっても、その姿勢に市民が共感し、高くても品物を買ったのです。
身近なところから参加が始まる
医療生協の場合はどうでしょう。組合員になるということは、自分たちだけでなく、だれもが安心して医療を受けられ、地域住民みんなの健康が守られる社会をつくることができるように、かかわっていくということになるでしょう。
そのためには、どんな医療サービスや社会的条件が必要なのかを、患者やその家族だけでなく、健康な人も、医療従事者もいっしょに考えていかなければなりません。考えるためには、現状についての知識が必要ですが、わからないことがあれば、医師でも職員でも、わかる人に聞いてみればいい。そこから「参加」が始まります。
知識が必要という一例ですが、2009年の新型インフルエンザで亡くなった方は、私の知人の医師によると、日本が約200人だったのに対し、アメリカは約1万6千人とのことでした。国民皆医療保険制度のないアメリカでは、適切な医療受けることができない人が多くいたからです。こうしたことを知れば、国民皆保険制度は、健康で安全・安心という社会に欠かせない条件のひとつだとよくわかります。
平和で安心・安全な社会に向けて、地域や周囲の人々といっしょに努力していくことは、民主主義社会の基本であり、人間本来のあり方ともいえます。ヨーロッパでは、「協同の倫理」「参加の倫理」という言葉があります。といっても難しいことではなく、当たり前の、人と人との社会的な関係をより厚く、より深く、そしてより奥行のあるものにしていくことなのです。
今年は国際協同組合年です。協同組合に期待されている役割をしっかり受け止め、学び合い、意見も言い、よりよい社会を形成する条件づくりにかかわっていってほしいと思います。
- ●協同組合の定義
- 「協同組合は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である」─1995 年に開かれた国際協同組合同盟(ICA)の100周年記念大会で採択
※この記事はインタビューをもとに構成しました。